関連病院の6SE病棟(仮)。今やほとんどの大病院にある、デラックスホテル病室の病棟である。それとは知らずに回診前の準備(preround)でいったら、いきなり絨毯にシャンデリアである。ネクタイではなくscrubs(手術着)であるのが、恥ずかしい感じ。
まあ、医療なんていうのはこの国ではビジネスに過ぎないから、こういうのも必要である。貧乏な患者なんて、学生や研修医のトレーニング(つまり病院の評判の維持)には好適であっても、その効用以上の経済価値は、はっきり言って、ない。心カテとかinterventional radiologyとか、限られた高収益procedureが必要ない患者は、結構まともな健康保険の患者でも、赤字すれすれの入院だ。だって、保険屋がちゃんと請求額を病院に払わないのだから。だから、ホテルみたいな副収入源が必要である、そういう経済システムがしかれているのだ。
で、この病棟。あまりに快適すぎて、患者が長居してしまいすぎるのだそうだ。それを6SE(仮) syndromeと呼ぶらしい。
先月一般外科チームに入院していた患者なんかは、長居しすぎて、肺塞栓を起こしたという。今チームで持っているデラックスお客様患者様は、一生懸命退院させようとチーム一丸となってがんばっているのだが、なんやかんやいって、出て行かない。病院なんていくら居心地がよくたって、必要のない人にとっては百害あって一利なし、ということが、わからないらしい。
あと、金持ちの患者にはどうしても、医療チームの方がいいなりになるというのも、弊害だ。たとえば血栓防止のSCD (sequential compression device、ふくらはぎマッサージ風船のようなもの)を付けろとか、ふつうの患者には結構きつく言いつけるわけだが、そういう点でもお客様患者には逆に行き届かないことだってあろう。
貧乏人が長期入院すると、とたんにケース・マネージャなる人たちが出てきて朝から晩まで退院させろさせろと煩いのだが、この6SWでは、全く不要な入院でもうんともすんとも言わない。これこそ、アメリカという社会の真の姿である。
2009年4月6日月曜日
2009年3月22日日曜日
卵巣ガンと保険適用
一昨日は産婦人科の学生向けの特別講義で、地元の卵巣ガン患者団体のおばさんたちが3人、話をしにきた。いろいろな病院・医学部・一般人向けのセミナーを通して、卵巣ガンの初期症状(腹部の鼓張、膨満、尿意切迫・頻尿、食欲減退・満腹感、腹部・骨盤部の痛み)について教育して回っているのだそうだ。そして、それぞれ自分の診断にいたった経過を話してくださった。
あるおばさんは、理想的な診断だったという。症状を呈して医者にいったら、すぐに放射線科で検査を受けて、治療も2週間以内に開始できたという(このおばさんは連邦政府職員というから、まともな健康保険なのではあるが)。
もう一人のおばさんは、2年以上にもわたって家庭医に無視され続けて、ついにしびれを切らせて専門家にいったら、全身に転移したステージ4だったという。卵巣ガンなどと相関のあるCA-125という糖蛋白マーカーがあるのだが、診断時にはそれが正常値の50倍以上であったという。「私、インターネットで症状を調べていたんです。それで何度、家庭医にCA-125を測定してください、ってお願いしたことでしょう。でも、必要ない、きっとただの逆流症状ですよ、と無視され続けたんですわ。あなたたちは、患者のいうことにもうちょっと耳を傾けるようにしてくださいね。」
このおばさんがわかっていないのは、「CA-125は卵巣ガンのスクリーニングには有効でない」という「エビデンス」が存在していて、それを根拠にたいていの保険屋は、スクリーニング目的ではこの検査に全く支払いがない、ということなのだ。つまり、家庭医の医院でもしもこの患者にCA-125検査を行っていたら、家庭医には一銭も検査費が戻ってこない、つまり、医院にとっては完全なる赤字検査である、ということである。症状がどうであれ、保険屋には関係ない。たとえ検査結果がHH(very high,とても陽性)で、その後卵巣ガンであることが判明したとしても、保険屋には関係ない、100%医院持ちということになる。
つまり、「エビデンス」というのは聞こえはいいし、重要な概念ではあるが、同時に、保険屋のコストカットの手段という側面がぬぐえないのである。一線で「エビデンス」を蓄積している臨床家たちはもちろん、患者のためを思ってやっている。だが同時に、<evidence-based medicineという概念が唱えられ出したのは、アメリカにおいて健康保険が完全資本主義式に転換しつつあった時期と重なっている>という事実も、否めないのだ。
現場で「エビデンス」は、個々人のプロフェショナルとしての判断を奪う手段として、用いられかねないのだ。料理人と、マクドナルドのバイトとの間の距離は、かくして、狭まる。
あるおばさんは、理想的な診断だったという。症状を呈して医者にいったら、すぐに放射線科で検査を受けて、治療も2週間以内に開始できたという(このおばさんは連邦政府職員というから、まともな健康保険なのではあるが)。
もう一人のおばさんは、2年以上にもわたって家庭医に無視され続けて、ついにしびれを切らせて専門家にいったら、全身に転移したステージ4だったという。卵巣ガンなどと相関のあるCA-125という糖蛋白マーカーがあるのだが、診断時にはそれが正常値の50倍以上であったという。「私、インターネットで症状を調べていたんです。それで何度、家庭医にCA-125を測定してください、ってお願いしたことでしょう。でも、必要ない、きっとただの逆流症状ですよ、と無視され続けたんですわ。あなたたちは、患者のいうことにもうちょっと耳を傾けるようにしてくださいね。」
このおばさんがわかっていないのは、「CA-125は卵巣ガンのスクリーニングには有効でない」という「エビデンス」が存在していて、それを根拠にたいていの保険屋は、スクリーニング目的ではこの検査に全く支払いがない、ということなのだ。つまり、家庭医の医院でもしもこの患者にCA-125検査を行っていたら、家庭医には一銭も検査費が戻ってこない、つまり、医院にとっては完全なる赤字検査である、ということである。症状がどうであれ、保険屋には関係ない。たとえ検査結果がHH(very high,とても陽性)で、その後卵巣ガンであることが判明したとしても、保険屋には関係ない、100%医院持ちということになる。
つまり、「エビデンス」というのは聞こえはいいし、重要な概念ではあるが、同時に、保険屋のコストカットの手段という側面がぬぐえないのである。一線で「エビデンス」を蓄積している臨床家たちはもちろん、患者のためを思ってやっている。だが同時に、<evidence-based medicineという概念が唱えられ出したのは、アメリカにおいて健康保険が完全資本主義式に転換しつつあった時期と重なっている>という事実も、否めないのだ。
現場で「エビデンス」は、個々人のプロフェショナルとしての判断を奪う手段として、用いられかねないのだ。料理人と、マクドナルドのバイトとの間の距離は、かくして、狭まる。
2009年3月21日土曜日
赤髭先生
一緒にクリニックをやっていた先生。「そう、研究したいのね。まあ臨床も最近は全くお金にならないからね、その意味ではそういう誘惑からは自由になるわよね。思った通りのことをできるのはいいことだわね。」
その先生、お金のない患者さんで還付率の悪い保険に入っていて、高価な検査なんかをすると、事務に出す請求書類に「書き忘れる」のだそうだ。「だってさ、どうせい払えないんでしょ。」
この先paper pusher達がどんどん自動化を通して医者の首を締め付けてゆくと、こういう赤髭行為も不可能になるだろう。
その先生、お金のない患者さんで還付率の悪い保険に入っていて、高価な検査なんかをすると、事務に出す請求書類に「書き忘れる」のだそうだ。「だってさ、どうせい払えないんでしょ。」
この先paper pusher達がどんどん自動化を通して医者の首を締め付けてゆくと、こういう赤髭行為も不可能になるだろう。
2009年3月15日日曜日
ER時代の終焉
来る4月、シカゴの大病院救急での人間的葛藤を描いた人気ドラマ「ER」が幕を閉じる。メディカルスクールに入学した頃の同級生は、紛れもなくER世代の学生だったので、時代の流れを感じずにはいられない。そしてかくいうかつての同級生達も、内科・小児科など3年間のレジデンシーに進んだ者は今年卒業、夏から勤務医や専門フェローになる。
ERは、葛藤のドラマである。Dr. Greene、Carter、 Dr. Benton、Dr. Ross。アメリカ医療の制度的崩壊の中で、伝統的なアメリカ医学のvaluesという建前が、資本主義という大義名分に押しつぶされる。その中でも「ER」の主人公たちは、なんとか、辛うじて、真摯に、医業のcreedに恥じず生きようとする。主人公達の、建前と本音の狭間の葛藤を目の当たりにしつつ、そして場合によってはそれにあこがれをもって、僕らは、医業というギルドに入門を申し出たのだった。
しかし、ERというドラマは、誰も見る人がいなくなって久しい。僕もメディカルスクールに進んだあたりから、忙しいのと、話の要であるグリーン先生がいなくなったこともあって、見なくなった。そして脳科学の博士を修了して医学博士課程に再合流した今、一回り下にあたるクラスの同級生達は、もはや、ER世代ではない。むしろ、「House」や「Scrubs」の世代である。
「House」の主人公、Dr. Gregory Houseは、自らのintellect以外の全てのものを馬鹿にしきっている。その中で毎週毎週、難しいcaseを見事に完治してゆく。そこには、体制にあわせようという意志は、全くない。建前など、とうに捨てている。「Scrubs」はほとんど知らないのだが、難しい問題もすべてコメディータッチに笑い飛ばしてしまう。
これらのドラマは、葛藤を超越している。そこには間違いなく、違った時代の息吹が感じられるのだ。
「We hold these truths to be self evident...」というアメリカ独立宣言の文句は、実に、「建前がない・全て本音」というアメリカ建国のタテマエを象徴している。「この真実、当たり前でしょ」。しかし、建前のない社会など、現実には、あり得ない。アメリカ史の200年とは、この「建前がない」というタテマエと、建前を必要とする社会のホンネの戦いと読める。
奴隷制度、黒人差別、階級差別。アメリカという国はこれらの建前に反した本音に支えられて生きてきた。が、1960年代という歴史のcataclysmで、この本音は形式上、一掃されたのだった。このあたりから、「建前はない」というタテマエは、タテマエではなく、本気で信じられるようになる。
本音が一掃されて建前が現実のものとして受容された社会では、「アメリカンドリーム」も、現実と錯覚されてしまう。誰でも、無限に富を累積できる。誰でもクレジットカードを駆使して、ハリウッドスターのような生活を送れる。誰でも、無限のエネルギーと食料を浪費できる。誰でも、大学院にさえ行けば博士になれる。誰でも、USMLEとboardsを無事終了すれば、名医になれる。
建前と本音の葛藤を了解しない社会にこそ、「アメリカンドリーム」というネズミ講型社会モデルが、真に開花できたのだ。
アメリカ社会、そしてアメリカ型に染まった世界が崩壊の瀬戸際を漂う中、この「House」や「Scrubs」は実に、歴史的な大潮流の息吹を反映しているように思えてならない。「ER」は、「建前がない」というタテマエと「建前」というホンネの間で板挟みになる主人公たちの葛藤の物語。「House」などは、建前を捨てたときに、何が残るかを問う物語なのである。
参考: 知人のブログ。Star Warsの世代交代に、同じような構造を読んでいる。
ERは、葛藤のドラマである。Dr. Greene、Carter、 Dr. Benton、Dr. Ross。アメリカ医療の制度的崩壊の中で、伝統的なアメリカ医学のvaluesという建前が、資本主義という大義名分に押しつぶされる。その中でも「ER」の主人公たちは、なんとか、辛うじて、真摯に、医業のcreedに恥じず生きようとする。主人公達の、建前と本音の狭間の葛藤を目の当たりにしつつ、そして場合によってはそれにあこがれをもって、僕らは、医業というギルドに入門を申し出たのだった。
しかし、ERというドラマは、誰も見る人がいなくなって久しい。僕もメディカルスクールに進んだあたりから、忙しいのと、話の要であるグリーン先生がいなくなったこともあって、見なくなった。そして脳科学の博士を修了して医学博士課程に再合流した今、一回り下にあたるクラスの同級生達は、もはや、ER世代ではない。むしろ、「House」や「Scrubs」の世代である。
「House」の主人公、Dr. Gregory Houseは、自らのintellect以外の全てのものを馬鹿にしきっている。その中で毎週毎週、難しいcaseを見事に完治してゆく。そこには、体制にあわせようという意志は、全くない。建前など、とうに捨てている。「Scrubs」はほとんど知らないのだが、難しい問題もすべてコメディータッチに笑い飛ばしてしまう。
これらのドラマは、葛藤を超越している。そこには間違いなく、違った時代の息吹が感じられるのだ。
「We hold these truths to be self evident...」というアメリカ独立宣言の文句は、実に、「建前がない・全て本音」というアメリカ建国のタテマエを象徴している。「この真実、当たり前でしょ」。しかし、建前のない社会など、現実には、あり得ない。アメリカ史の200年とは、この「建前がない」というタテマエと、建前を必要とする社会のホンネの戦いと読める。
奴隷制度、黒人差別、階級差別。アメリカという国はこれらの建前に反した本音に支えられて生きてきた。が、1960年代という歴史のcataclysmで、この本音は形式上、一掃されたのだった。このあたりから、「建前はない」というタテマエは、タテマエではなく、本気で信じられるようになる。
本音が一掃されて建前が現実のものとして受容された社会では、「アメリカンドリーム」も、現実と錯覚されてしまう。誰でも、無限に富を累積できる。誰でもクレジットカードを駆使して、ハリウッドスターのような生活を送れる。誰でも、無限のエネルギーと食料を浪費できる。誰でも、大学院にさえ行けば博士になれる。誰でも、USMLEとboardsを無事終了すれば、名医になれる。
建前と本音の葛藤を了解しない社会にこそ、「アメリカンドリーム」というネズミ講型社会モデルが、真に開花できたのだ。
アメリカ社会、そしてアメリカ型に染まった世界が崩壊の瀬戸際を漂う中、この「House」や「Scrubs」は実に、歴史的な大潮流の息吹を反映しているように思えてならない。「ER」は、「建前がない」というタテマエと「建前」というホンネの間で板挟みになる主人公たちの葛藤の物語。「House」などは、建前を捨てたときに、何が残るかを問う物語なのである。
参考: 知人のブログ。Star Warsの世代交代に、同じような構造を読んでいる。
2009年3月3日火曜日
What is the indication?
学生 「Mrs. X is a 27 yo G2P1001 presenting at 37w4d for elective R C/S...」
アテンディング 「Why can't she wait, what's her indication for early C/S?」
学生 「Well, she just lost her job on Monday...」
アテンディング 「What the #@%&! ?」
学生 「Well, she just lost her job and her insurance runs out next week...」
失業で来週、健康保険を失うので、保険のあるうちに早めに帝王切開。結構yuppieな女性がこんなことになるんだから、この国の景気は、相当、悪いのだろう。それより何より、この国の市場主義健康保険は、すでに、破綻している。
どこの国も健康保険政策はきつい状況だが、アメリカは、先進世界でダントツに破綻している。というか、老人健康保険や軍人保険をのぞいては、破綻というよりは、そもそも、政策がまったくない。どの統計をみても、それは世界的に歴然。金権主義の強い共和党先生ですら、この破綻に気づきだしているが、だからといってオバマ氏がこの惨状を変革できるかは、不明。
23時間観察入院、というのも同類だ。24時間未満だと、多くの保険会社では入院扱いではなく、処置という分類になり、還付率が入院より高いとか、事前承認が不要、とか。だから、出産しそうにない妊婦は、努めて、23時間目に退院してもらうわけだ。1時間後にまた再入院するのなら、それは、それで、よいらしい。書類や部屋の清掃、静脈確保からなにから、社会全体としては大きな無駄になるわけだが、アメリカというシステムは公共の福利という概念を内包していないため、まあ、致し方ないこの蟻地獄。
アテンディング 「Why can't she wait, what's her indication for early C/S?」
学生 「Well, she just lost her job on Monday...」
アテンディング 「What the #@%&! ?」
学生 「Well, she just lost her job and her insurance runs out next week...」
失業で来週、健康保険を失うので、保険のあるうちに早めに帝王切開。結構yuppieな女性がこんなことになるんだから、この国の景気は、相当、悪いのだろう。それより何より、この国の市場主義健康保険は、すでに、破綻している。
どこの国も健康保険政策はきつい状況だが、アメリカは、先進世界でダントツに破綻している。というか、老人健康保険や軍人保険をのぞいては、破綻というよりは、そもそも、政策がまったくない。どの統計をみても、それは世界的に歴然。金権主義の強い共和党先生ですら、この破綻に気づきだしているが、だからといってオバマ氏がこの惨状を変革できるかは、不明。
23時間観察入院、というのも同類だ。24時間未満だと、多くの保険会社では入院扱いではなく、処置という分類になり、還付率が入院より高いとか、事前承認が不要、とか。だから、出産しそうにない妊婦は、努めて、23時間目に退院してもらうわけだ。1時間後にまた再入院するのなら、それは、それで、よいらしい。書類や部屋の清掃、静脈確保からなにから、社会全体としては大きな無駄になるわけだが、アメリカというシステムは公共の福利という概念を内包していないため、まあ、致し方ないこの蟻地獄。
2008年12月2日火曜日
肺癌
典型的な症例の患者さんが来ないか、などと変なことを思うと、願いが叶ってしまいかねない。今月は主に低所得者層の患者が多い大病院なだけに、無保険の患者がやたら多い。最後の最後まで医者にかからず、とんでもない状態にまで病期が進行する。で、最後に「典型症状」を呈して救急に転がり込んでくるのだ。救急では、無保険でも、見ざるを得ない。第3世界のような話だが、アメリカの大都市ではどこでもある話。そんなのをあまり知らずに、日本では、アメリカの医療システムが凄いと勘違いする節があるらしい。
30間年にもわたって毎日1パック吸っていたら、本人もうすうす感づくものだ。一ヶ月前くらいに「魚の骨」をのどにつかえたころから、息が苦しくなってきて、声もしわがれてきた。1ヶ月で10キロほど痩せたという。空気だけのはずの大動脈級の上、気管の真横に、大きな大きな何かが居座っている。ついでに帰ってきた血液検査は、歩いて入院してきたのが嘘のような低ナトリウム血症、肺の小細胞癌なんかではよくある、SIADHなのだろう。鎖骨上リンパ節は、転移しやすいわけだが、もちろんコリコリ。歩いて入ってきた患者さんに、もう数ヶ月もないかもしれない、と、誰が告げるのだろうか。
あともうひとり、黄色い水風船のような、末期腎不全の患者。南米移民にやたら多いようだが、アルコール中毒。もう今月、3人目である。この患者は若干、英語を話すからよい。血小板が限りなくゼロに近く、体中に痣。しかも、目が黄色いので、猫のようだ。この人、町のある大学病院の救急から、2,3度、ろくに治療を受けずに追い出されている(カトリックであるうちの大学では、もちろんそんなことはないのだが、だからこそ、経営不全で大変なのだ)。FAXで診療記録を取り寄せたら、ほとんど何もしていないのが手に取るようにわかる。そう、病院によっては、救急ですら、血でも垂れていない限り道端におっぽりだされるのだ。まあ、利益事業としての医療の、必然の帰結ではある。そして、宗教系の大学病院や今いる公益法人のようなところに、回り回ってくるのだ。この国、本当に、終わっている。
皆さん、今晩寝る前に、神でも仏でも親でも何でもいいので、感謝の祈りを捧げましょう。
30間年にもわたって毎日1パック吸っていたら、本人もうすうす感づくものだ。一ヶ月前くらいに「魚の骨」をのどにつかえたころから、息が苦しくなってきて、声もしわがれてきた。1ヶ月で10キロほど痩せたという。空気だけのはずの大動脈級の上、気管の真横に、大きな大きな何かが居座っている。ついでに帰ってきた血液検査は、歩いて入院してきたのが嘘のような低ナトリウム血症、肺の小細胞癌なんかではよくある、SIADHなのだろう。鎖骨上リンパ節は、転移しやすいわけだが、もちろんコリコリ。歩いて入ってきた患者さんに、もう数ヶ月もないかもしれない、と、誰が告げるのだろうか。
あともうひとり、黄色い水風船のような、末期腎不全の患者。南米移民にやたら多いようだが、アルコール中毒。もう今月、3人目である。この患者は若干、英語を話すからよい。血小板が限りなくゼロに近く、体中に痣。しかも、目が黄色いので、猫のようだ。この人、町のある大学病院の救急から、2,3度、ろくに治療を受けずに追い出されている(カトリックであるうちの大学では、もちろんそんなことはないのだが、だからこそ、経営不全で大変なのだ)。FAXで診療記録を取り寄せたら、ほとんど何もしていないのが手に取るようにわかる。そう、病院によっては、救急ですら、血でも垂れていない限り道端におっぽりだされるのだ。まあ、利益事業としての医療の、必然の帰結ではある。そして、宗教系の大学病院や今いる公益法人のようなところに、回り回ってくるのだ。この国、本当に、終わっている。
皆さん、今晩寝る前に、神でも仏でも親でも何でもいいので、感謝の祈りを捧げましょう。
2008年11月23日日曜日
Rx... underpants, Disp... x1
チームのレジデントが、術後用のメッシュの下着の処方箋を書いた。患者から要求されたのだという。どうやら患者は、処方箋に書いてあれば何でも保険が通用すると考えている節があるのだ。
2008年11月12日水曜日
Primary Care
今日はある遺伝性hypercoagulabilityの患者さんだったのだが、ついている家庭医が愚痴っていた。「同じ患者さんでもね、内科医が診ると、初診45分、再診30分なのよ。私なんて、20分でしょ。こんな複雑な患者さんを20分ですべてマネージしろというのかしら。」
アメリカのプライマリケアは元来、じっくりと人間関係を築いて時間をかけてみるモデルなので、現代のマネージドケアでは、なかなかうまくいかない部分が多いようだ。と同時に、プライマリケアに一番、ツケがきているようだ(NEJM関連記事)。
アメリカのプライマリケアは元来、じっくりと人間関係を築いて時間をかけてみるモデルなので、現代のマネージドケアでは、なかなかうまくいかない部分が多いようだ。と同時に、プライマリケアに一番、ツケがきているようだ(NEJM関連記事)。
薬の値段
頭痛治療の講義。
Sumatriptan/IMITREXといった類の薬は、実を言うと結構な値段らしい。今のご時世、患者によってはろくに薬をカバーしない保険も多いので(無保険の患者はどこの病院・医院でも、事務で追い払われるので、とりあえず心配しなくてよい)、薬の値段については神経を使わなくてはならない。かといって、片頭痛なんていうのは、ほかにはあまり手の打ちようがないようだ。
ePocratesを調べると...
なぜか、弱い錠剤のほうが、高い。で、講義した先生。たとえば50 mgではじめる場合、以前は100 mg錠を処方して、患者に半分に切って服んでもらっていたという。つまり患者にとっては、半額セール。だが、薬屋さんもだまっちゃいない、錠剤を、切りにくい三角形に変更したのだそうだ。だから、この手は、もう、使えないという。
薬理学みたいのは医学生だから勉強するのが当然だろう。でもそれに加え、薬価、さらにどの薬がどの保険でカバーされるか、さらにさらに錠剤の形状まで把握しろ、というのか?
何かおかしい。
Sumatriptan/IMITREXといった類の薬は、実を言うと結構な値段らしい。今のご時世、患者によってはろくに薬をカバーしない保険も多いので(無保険の患者はどこの病院・医院でも、事務で追い払われるので、とりあえず心配しなくてよい)、薬の値段については神経を使わなくてはならない。かといって、片頭痛なんていうのは、ほかにはあまり手の打ちようがないようだ。
ePocratesを調べると...
- 25 mg (x 9) $214.01
- 50 mg (x 9) $199.25
- 100 mg (x 9) $199.25
なぜか、弱い錠剤のほうが、高い。で、講義した先生。たとえば50 mgではじめる場合、以前は100 mg錠を処方して、患者に半分に切って服んでもらっていたという。つまり患者にとっては、半額セール。だが、薬屋さんもだまっちゃいない、錠剤を、切りにくい三角形に変更したのだそうだ。だから、この手は、もう、使えないという。
薬理学みたいのは医学生だから勉強するのが当然だろう。でもそれに加え、薬価、さらにどの薬がどの保険でカバーされるか、さらにさらに錠剤の形状まで把握しろ、というのか?
何かおかしい。
2008年11月4日火曜日
過誤保険、対象外
現在アメリカの開業医の間で話題の訴訟例。
障害者に対しては法律上、適切なコミュニケーションを供与する義務が、医療者に課せられているらしい。たとえば聴覚障害者なら、筆談でもよいのだが、それでは現代の20分診療でとても間に合わない。だから、聴覚障害の患者なら、手話通訳を手配する義務が、開業医に課されるという。(その患者がドタキャンでもしようものなら、手話通訳代は、完全に医院の赤字となる。)
で、ある開業医が手話通訳を雇わずに、聴覚障害者のSLEか何かを治療したそうだ。治療は適切で寛解にいたったのだが、治療とはまったく関係なく、「コミュニケーション措置不十分」、ということで、この開業医が訴えられて、敗訴したらしい。悪くしたことに、この「コミュニケーション措置不足」は医療過誤ではないため、過誤保険ではカバーされないのだという。
10分前にオバマの選挙勝利がほぼ確定したが、ここまでずたずたの医療制度では、「メシア」と称される彼にしたって、手も足も出ないかもしれない。財政も大赤字だし。
障害者に対しては法律上、適切なコミュニケーションを供与する義務が、医療者に課せられているらしい。たとえば聴覚障害者なら、筆談でもよいのだが、それでは現代の20分診療でとても間に合わない。だから、聴覚障害の患者なら、手話通訳を手配する義務が、開業医に課されるという。(その患者がドタキャンでもしようものなら、手話通訳代は、完全に医院の赤字となる。)
で、ある開業医が手話通訳を雇わずに、聴覚障害者のSLEか何かを治療したそうだ。治療は適切で寛解にいたったのだが、治療とはまったく関係なく、「コミュニケーション措置不十分」、ということで、この開業医が訴えられて、敗訴したらしい。悪くしたことに、この「コミュニケーション措置不足」は医療過誤ではないため、過誤保険ではカバーされないのだという。
10分前にオバマの選挙勝利がほぼ確定したが、ここまでずたずたの医療制度では、「メシア」と称される彼にしたって、手も足も出ないかもしれない。財政も大赤字だし。
2008年10月27日月曜日
Hospice 訪問
今日はhospice訪問。Social workerといっしょに患者訪問に出かけた。「死にゆく人を助ける」というのは、何とも不思議な営みだ。まあでもある意味、人は全て、terminalな訳であって、医療の本質がそこにある、ともいえなくもない。生活習慣病などは特にそうだが。
保険が下りるよう、腕の外周などを注意深くカルテに記録するそうだ。体重が増え始めると、保険会社から支払いが止まるのだそうだ。Hospiceを始めると病状の進行が小康状態となることがあるが、そういうふうに明確に下り坂ではない人は、hospiceの対象にはならない。それも、保険会社からの支払いが止まってしまう。だから経済的にはまるで、病状の進行が目的、のような本末転倒な状態にもとれてしまう。まあ、市場主義的保険制度にあっては、無理もない話だが。
保険が下りるよう、腕の外周などを注意深くカルテに記録するそうだ。体重が増え始めると、保険会社から支払いが止まるのだそうだ。Hospiceを始めると病状の進行が小康状態となることがあるが、そういうふうに明確に下り坂ではない人は、hospiceの対象にはならない。それも、保険会社からの支払いが止まってしまう。だから経済的にはまるで、病状の進行が目的、のような本末転倒な状態にもとれてしまう。まあ、市場主義的保険制度にあっては、無理もない話だが。
2008年10月5日日曜日
2008年9月23日火曜日
2008年9月13日土曜日
Passive Death Wishはおあり?
朝の引き継ぎで、レジデント・看護師・学生が集まって話しているところに、病棟の経理係のオバチャンがきた。入院患者の一人について、保険屋が払わないと言いだしたらしい。
アメリカの崩壊した医療保険システムでは、病院から健康保険会社に対して請求した医療費が、すべて帰ってくるとは限らない。保険屋によっては、勝手に値引きしたり、これとこれは払わない、などと勝手なことを言い出す。まあ、民間の保険会社は商売なのだから、重病人には死んでもらうのが一番いいに決まっているのだが、商売ではなく医療に携わる病院側としては、そういうわけにもいかない。特に精神科については、偏見が根強いようで、保険交渉も一般病棟とは別だったりして、支払い率が低いようだ。
だから、経理のおばちゃんによると、「カルテを書くときは、もしも物質依存とそのほかの精神疾患が合併している場合は、かならず一番目の診断は精神疾患の方にしてくださいね」だって。物質依存は、分裂病や鬱や躁鬱などに比べ、一段と蔑視の度合いが高いのだという。
「あと、できることなら、passive death wish(求死願望とでもいうのか?自殺するほどではないけれど、事故か病気か何かで死んでしまえばいいのにな~と思うこと。)も聞き出せると最高ですわ」と。もちろん冗談。みんなでワッハッハ。でも、日がな保険会社とfightしていると、そんな冗談の一つもいいたくなるのだろう。
アメリカの崩壊した医療保険システムでは、病院から健康保険会社に対して請求した医療費が、すべて帰ってくるとは限らない。保険屋によっては、勝手に値引きしたり、これとこれは払わない、などと勝手なことを言い出す。まあ、民間の保険会社は商売なのだから、重病人には死んでもらうのが一番いいに決まっているのだが、商売ではなく医療に携わる病院側としては、そういうわけにもいかない。特に精神科については、偏見が根強いようで、保険交渉も一般病棟とは別だったりして、支払い率が低いようだ。
だから、経理のおばちゃんによると、「カルテを書くときは、もしも物質依存とそのほかの精神疾患が合併している場合は、かならず一番目の診断は精神疾患の方にしてくださいね」だって。物質依存は、分裂病や鬱や躁鬱などに比べ、一段と蔑視の度合いが高いのだという。
「あと、できることなら、passive death wish(求死願望とでもいうのか?自殺するほどではないけれど、事故か病気か何かで死んでしまえばいいのにな~と思うこと。)も聞き出せると最高ですわ」と。もちろん冗談。みんなでワッハッハ。でも、日がな保険会社とfightしていると、そんな冗談の一つもいいたくなるのだろう。
2008年9月9日火曜日
プラスチック社会(追)
長くいて患者をよく知っている看護師によると、この患者はクレジットカードを使って町中のホテルに泊まり逃げをしているらしい。住所もないのに、クレジットカードを手に入れることができる。もちろん、カードは払わずに使い倒し。
どう考えても、全く、変な話だ。
どう考えても、全く、変な話だ。
2008年8月28日木曜日
Axis V
DSM-IV分類のAxis Vは、Global Acessment of Function (GAF)、つまり、精神の総合評価、100点満点。
レジデントによると「GAFは無意味だからテキトーに書いてもらっていいんだけれど、患者が保険をはじかれないように、必ず30点以下にしておいてね」だって。あと、もちろん細かく点数の分布が決められているので、試験では多分何かしら聞かれるのだろう。精神科修了のためには全国共通のshelf examに合格しなければならないのだけれども、この試験、相当難しいらしい。
そういえば、薬についても「ziprasidone(GEODON)は、もし試験で聞かれたら<QT間隔延長を引き起こしやすい>というのが正解だけれども、それは過去の研究から生じた評判で、最新の治験によるとそうでもなさそうなんだよね」とか、そういうたぐいのpearlもどきも、日常茶飯事のようだ。
医学は、保険屋と試験のために存在しているのかもしれない。
レジデントによると「GAFは無意味だからテキトーに書いてもらっていいんだけれど、患者が保険をはじかれないように、必ず30点以下にしておいてね」だって。あと、もちろん細かく点数の分布が決められているので、試験では多分何かしら聞かれるのだろう。精神科修了のためには全国共通のshelf examに合格しなければならないのだけれども、この試験、相当難しいらしい。
そういえば、薬についても「ziprasidone(GEODON)は、もし試験で聞かれたら<QT間隔延長を引き起こしやすい>というのが正解だけれども、それは過去の研究から生じた評判で、最新の治験によるとそうでもなさそうなんだよね」とか、そういうたぐいのpearlもどきも、日常茶飯事のようだ。
医学は、保険屋と試験のために存在しているのかもしれない。
2008年8月26日火曜日
F/U
カルテにはいろいろな略語があるが、なれていないと時々、変に読んでしまう。たとえば「F/U」。Follow upということなのだが、どうしてもFu*k youに見えてしまう。
で、昨日HI/SI(他殺企図あり、自殺企図あり)といっていた患者さんは、精神科入院病棟に飽きてグループホームに帰りたくなったらしく、今日はHI/SI/PDW全くなしとのこと。以前はデイプログラムの作業療法に通っていたのだが、グループホームの係の話によると、健康保険の削減で、デイプログラムにいかれなくなったという。それでデイプログラムをやめて以来、月に2,3回は地域の救急に現れて、HIとかSIとかいって入院するらしい。要するにattention seekingの偽病なわけだが、こちらとしては致し方ないから、レジデントに習いながら午後、無事退院させた。
ERとか精神科病棟への入院は、社会全体のレベルではとても費用が高くつくわけで、それでもデイプログラムを中止させられてしまうあたりに、アメリカの民間保険の破綻の一端が見られる。いわれてみれば当たり前だが、「貧乏な病人は死んでしまえ」というのが、収益機関としての民間保険の本質なのだ。当然だが、人の幸せなんて、どうでもよい。
ようするに、F/U。
で、昨日HI/SI(他殺企図あり、自殺企図あり)といっていた患者さんは、精神科入院病棟に飽きてグループホームに帰りたくなったらしく、今日はHI/SI/PDW全くなしとのこと。以前はデイプログラムの作業療法に通っていたのだが、グループホームの係の話によると、健康保険の削減で、デイプログラムにいかれなくなったという。それでデイプログラムをやめて以来、月に2,3回は地域の救急に現れて、HIとかSIとかいって入院するらしい。要するにattention seekingの偽病なわけだが、こちらとしては致し方ないから、レジデントに習いながら午後、無事退院させた。
ERとか精神科病棟への入院は、社会全体のレベルではとても費用が高くつくわけで、それでもデイプログラムを中止させられてしまうあたりに、アメリカの民間保険の破綻の一端が見られる。いわれてみれば当たり前だが、「貧乏な病人は死んでしまえ」というのが、収益機関としての民間保険の本質なのだ。当然だが、人の幸せなんて、どうでもよい。
ようするに、F/U。
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