2008年9月14日日曜日

ゆく川の流れは絶えずして

金曜日早朝、ドイツの共同研究者とデータについてSkypeしていて気づいたのだが、まだ、ドイツから帰国して、1ヶ月しかたたない。実感としてはもう、数ヶ月はやっている気がする。短いような、長いような、不思議な一年になりそうだ。

今週は病棟が暇だったので、いろいろな知り合いの先生のところを回って、相談などした。話すにつけ、やっぱり、僕は、たぶん、基礎研究がしたいのである。

2008年9月13日土曜日

Asshole NOS

ある患者の退院書類を準備していて、レジデントに、最終診断は何にしましょう、と聞いたら、「Asshole NOS」だって。ワッハッハ。(NOS=not otherwise specified、DSM分類の中で、たとえば診断のはっきりしない情緒障害は、mood disorder NOSなどとなる)

本当に今週はしんどかった。この患者、悪性の覚醒剤の長期乱用で、脳はきっとどろどろに溶けているのだ。でも、人間というのは恐ろしいもので、一見するとふつうに振る舞えるのだ。じっくり込み入った話を聞き出してはじめて、妄想などの酷さがわかる。あと、回診の時は必ず、30秒以内に泣き出す。あまり科学的ではないとらえ方をすると、大脳による制御が解けて、動物的な原初感情があらわになっているのかもしれない。

で、チーム全体で一生懸命よかれとしていることも、あまり受け入れない。覚醒剤で頭どろどろのくせに、出した薬は「頭がおかしくなるから」と拒む。確かに向精神薬はある意味、怖い部分もあるのだが、薬というのは一般的にどれも怖いわけで、それを承知の上で、何もしないよりはよっぽどましだから、と出しているのだ。もうしばらく安定させてからの退院、という予定だったのだが、AMA(against medical advice医者の勧めに反しての退院)で出て行くという。まあ、voluntaryの病棟なので、強制的に入院を継続させたり、ベッドに縛り付けたりするようなことは、しない(できない)のだ。

完全に頭をやられているならいざ知らず、時々、健常に見えるだけに、僕のようなナイーヴな医学生は頭と気持ちを撹乱されて、しんどいのかもしれない。

でなんとか、物質依存の治療施設を紹介して、たぶん処方した薬についてもその重要性をわかってもらえた気はするのだが(気の遠くなるほどの回数、説得した挙げ句)、できる限りのことはした今となってはもう、悪いけれど、さっさと出て行ってほしい。本当はこういう患者じゃなくて、愉快な躁患者とかを、受け持ちたいのだ。

Passive Death Wishはおあり?

朝の引き継ぎで、レジデント・看護師・学生が集まって話しているところに、病棟の経理係のオバチャンがきた。入院患者の一人について、保険屋が払わないと言いだしたらしい。

アメリカの崩壊した医療保険システムでは、病院から健康保険会社に対して請求した医療費が、すべて帰ってくるとは限らない。保険屋によっては、勝手に値引きしたり、これとこれは払わない、などと勝手なことを言い出す。まあ、民間の保険会社は商売なのだから、重病人には死んでもらうのが一番いいに決まっているのだが、商売ではなく医療に携わる病院側としては、そういうわけにもいかない。特に精神科については、偏見が根強いようで、保険交渉も一般病棟とは別だったりして、支払い率が低いようだ。

だから、経理のおばちゃんによると、「カルテを書くときは、もしも物質依存とそのほかの精神疾患が合併している場合は、かならず一番目の診断は精神疾患の方にしてくださいね」だって。物質依存は、分裂病や鬱や躁鬱などに比べ、一段と蔑視の度合いが高いのだという。

「あと、できることなら、passive death wish(求死願望とでもいうのか?自殺するほどではないけれど、事故か病気か何かで死んでしまえばいいのにな~と思うこと。)も聞き出せると最高ですわ」と。もちろん冗談。みんなでワッハッハ。でも、日がな保険会社とfightしていると、そんな冗談の一つもいいたくなるのだろう。

2008年9月10日水曜日

Brahmsの鑑別

大体BrahmsのCDをかけ始めると、軽躁気味の兆候。あるいは、コーヒーの飲み過ぎなだけかも知れない。
麻酔科・外科のカルテを使った臨床研究などが、頭の中を駆けめぐる。

Physical examinationビデオ講義

早くも後1.5週間で精神科は終わり。次なる関門は、3ヶ月の内科。Georgetown入院病棟で1ヶ月、地域の医院で外来1ヶ月、関連病院の入院病棟で1ヶ月。

精神科から救急に送られて、ざっと診察するだけでもあたふたしているのに、このままだと内科はヤバイ。第一、聴診器とかそういう授業はM2でやったが、もう、5年近く前の話。で、Georgetownの内科は特に診察に関しては厳しいといわれる。そこら辺、何とかしなくてはならない。



ちょっと前に知ったのだが、便利なことに、Physical Diagnosisの手ほどきビデオが無料で視聴できる。ごく普通のphysical diagnosisの講義だが、復習にちょうどよい。あと日本の学生の方は、留学の際に特にこういうのが参考になるのかもしれない。

あと、医学部で学んだことのない方は、解剖のビデオとかもあるので、おもしろいと感じる方もあるかもしれない。ただ、あの臭いと、人体がモノとなった触感は、なかなかビデオでは伝わらないのではあるが。

2008年9月9日火曜日

怖い話

今日は指導医が急な外来か何かで遅れる、というので、朝のシフト交代から10時頃まで暇だった。ので、チームみんなで食堂にいってゆっくり朝食をした。

で、ちょっと変な病歴の患者が入ってきていたので、そこから発展して、いろいろとおもしろい話を聞くことができた。チーフレジデントが、こういう話、とっても好きなのだ。ビール瓶を飲み込んだ患者の話や、膣部にナイフを挿入して自殺を図った患者や、trazodone(Desyrel)による持続勃起症によって救急に運ばれた患者(海面体へ、epinephrine注射?!)の話や、経尿道的な性交の話になった。

この経尿道的な性交、もちろん異常性癖ではあるが、同性愛男性に時々みられるらしい。解剖学的に考えて、どうしたらそんなことができるのかはちょっと不明だが(「うん、きっと、Foleyの延長なんでしょ。首長族とかみたいに、少しずつだと思うわ」)、尿路感染症・尿失禁など、大変なことになりそうだ。で、チーフレジデント以下、僕以外全員女性なので、それに関するジョークはちょっとキツかった。精神科にいると、変な行動をいろいろみる、というのと、冗談でも言っていないとこっちのバランス感覚がおかしくなってしまう、という面もあるだろう。

そういえば、チーフレジデントは今日チーム全体をさして、間違えて、「ladies」だって。もちろん、普通に「guys」とかいうのも本来は男性なわけだが、現在では中性用法も一般化している。それを考えると、女性の方が多いので「ladies」でもよいのだろうけれど、まあチーフレジデントは僕と目をあわせるなり、慌てて「and gentlemen」と付け加えた。

プラスチック社会(追)

長くいて患者をよく知っている看護師によると、この患者はクレジットカードを使って町中のホテルに泊まり逃げをしているらしい。住所もないのに、クレジットカードを手に入れることができる。もちろん、カードは払わずに使い倒し。

どう考えても、全く、変な話だ。

アル中

10日間、朝から晩まで飲み続け。飲んでは倒れ、飲んでは倒れ。ついにお金がつきて、うがい薬(アルコール25%)。

これ、正真正銘の、dependence。

2008年9月8日月曜日

プラスチック社会

ホームレスの人がナースステーションで持ち物を広げていたら、クレジットカード(信用卡)が10個くらい、バラバラ、と出てきた。それ、どういうこと???

Parole officer

PO

「 PO=per os 経口投与 」かと思いきや、ankle bracelet云々。よく読むと、「PO = Parole officer(仮釈放囚人の監視官)」ということらしい。囚人の居場所を監視するために、踵に追跡のための電波発生ブレスレットをしている、ということ。

2008年9月6日土曜日

Path, Neuro, Radiology

同級生レジデントと話していたら、どうやら僕は、病理・神経内科・放射線科のタイプなのだそうだ。

2008年9月4日木曜日

Homicidal Ideation

入院病棟の隣のチームのattendingがお休みなので、精神科の他のattendingがカバーしている。ところがこの代理attending、回診が恐ろしく遅く、評判がとても悪い。でこの問題のattending、宗教上の理由から、妊娠中絶を希望する妊婦を、他殺企図とみなしているらしい。

もちろん、カトリックの教えに従えば、受精の時点から生命が始まるので、中絶は殺人に当たる。事実、うちの大学はカトリックなので、大学病院では中絶目的のD&Cは行っていない。でも今日はresidentたちが顔をつき合わせて、「あのattending、中絶希望の患者を他殺企図あり、ということで強制入院しようとしている...」と本気で心配していた。これ、果たして、合法なのだろうか?

その勢いでいったら本来、今、共和党の党大会で国粋主義的なスローガンを唱えている馬鹿たちも、強制入院させるべきかもしれない。しかもこちらは、石油利権だかなんだかをめぐって、胎児ばかりか、一般市民、婦女をも殺そうという人たちである。

まあ宗教的な原理主義者にありがちなように、そのattendingはたとえば離婚しているのだ(これまたカトリックの教えに大幅に反する)。アメリカには、人間の性悪な面と、善悪の相対性をまったく理解しない馬鹿が、実に多すぎるのだ。本当はそういうのは、中学高校あたりで、卒業すべきであろう。

救急にて

ちなみに今日は午後、PGY-2のレジデントたちが講義でいなくなったこともあって、恐ろしく忙しかった。で、救急に患者を入院させにいったのだが、そこでも4年前の同級生を一人目撃。立派にレジデント然としてふるまっている。この先、こういうこともたくさんあるのだろう。



その救急の患者さんは、いわゆる「frequent flyer」。飛行機会社のマイルではないが、要するに、精神科病棟の常連さん。コカインとアルコールでハッピーになって入ってきた。まあ、ヒトのよいハッピーなオッチャンなのだが、電子カルテに載っている分だけでも10回ちかく入院している。なんだかhopelessな気がして、レジデントに入院の治療目標をたずねたら、「安楽死」ですって。もちろん、冗談。でもこのレジデントは人一倍思いやりがあって、患者のあしらい方もうまくて、しかも患者の人気も高いのだが、それだからこそ、そういう冗談でも言っていないとやっていられない。その気分が、少しだけれどわかる気がする。何度ケアしても同じ状態で戻ってくる。これでは、どうしても、むなしいよね。

まだハッピーなだけ、よい。これが鬱とか、もっとひどいのはcluster Bっぽい人格障害たっだりすると、もうやってられない。

でそのハッピーなオッチャンは薬の密売場所(クラック・ハウス)の見張りをすることで、コカインを手に入れるのだという。そんな怖い職業では、麻薬のひとつもやっていないと気が狂ってってしまう。(あれ、なんだか話が親子丼に?でも疲れていて考える気力がわかないから、とりあえずそういうことにしておく)

Borderline

入院患者の数も徐々に増えてきて、いろいろ仕事が増えてきた。

退院の際に社会福祉団体やグループホームなどの世話をしなければならない患者が多い(つまり社会的に機能できない患者で家族のサポートがない場合)。で、そういう仕事は金にならないから病院経営側はきちんとしたケースマネージャーを病棟につけない。結局は医学生が奔走することになる。



あと昨日は何人かいるborderlineの患者の一人がroundsの際に特にひどく、attendingに噛み付いた(not literally)ので、もちろんattendingはクールにうまくあしらったのだが、慣れないこちらは気分が悪くてしょうがない。あるいは、何食わぬ顔で偽病の患者など。信じちゃったよ。はじめはattendingやresidentが偽病だと決め付ける理由が、わからなかった。

でちょっとあまりに気分が重いので、大学院の友人を誘ってのみにいっちゃった。今日はおかげでちょっと眠いけれども気分は晴れた。

2008年9月3日水曜日

病院禁煙

来る11月20日より、大学病院全体が禁煙となるらしい。駐車場含め、構内すべて。指定喫煙所も、すべて取り壊し。

これは患者を退けることになるのではないか、と心配もある。たとえば、分裂病患者のように、自己投薬のような意味での喫煙率が非常に高い疾患群もいくつかあるのだが、そんなこんなで精神科では特に心配していた。

あと、医者とか看護士とかでも、意外と多いんですよね。

2008年9月2日火曜日

同級生レジデント

今日からレジデントのシフト交替である。今度うちのチームのレジデントは、実をいうとメディカルスクールの1,2年の時の同級生(2006年卒)。内科研修を1年やってから精神科に転向したので、卒業3年目でも、精神科ではPGY-2。しばらく当時の同級生の話などをして、不思議な気分であった。

アメリカでは、家族の地理的な事情などがない限りは、大学を卒業して研修はよその大学に移るのが普通で、理想とされる。でもまあ当時の同級生の何人かは居残っているので、これからもレジデントとして師事することになるだろう。

MD/PhDというのは、こういう面でもちょっと不思議だ。

2008年9月1日月曜日

今後の予定

Humboldt財団の研究員に任命されたので、また来年夏には、ドイツに数ヶ月戻れそうである。金曜に学生部長(?)みたいな教授と話したら、実に前向き。ただ、2010年度のマッチは、参加できないことになりそうだ。これから、学生委員会にまたカリキュラム変更のrequestを書かなければならない。

で研究がうまくいっていたら、そのまま2010年夏~秋に卒業後、そのままポスドク。研究がうまくいっていなかったら(仮にその時点での筆頭著者引用点数が、30を超えない見込みだったら、と定義しよう)、2011年のマッチに参加することになる。

もしも2011年のマッチに参加する場合は、2010年度は一年間、ぼちぼち研究とレジデンシーの面接を進めながら、サマーコースやAway Rotation三昧でいろいろな科、いろいろな大学を体験できることになりそうだ。日本でもどこか、1ヶ月くらい置いてもらえないだろうか。あるいは、ドイツも面白いかもしれない。

本当は研究が一番したいのだが、↑も結構、面白いかもしれない。

2008年8月31日日曜日

Labor Day Weekend

明日は「Labor Day = 勤労感謝の日」で3連休なのだが、今日は休日出勤で「勤労の日」になってしまった。といっても、僕自身プライベートでこれといって特に何もないので、なるべくほかの同級生が休みを取れるようにと、立候補したのではあるが。

で、朝は少ない入院患者をround。入院病棟の2チームと病院内コンサルトをすべてカバーしたので、いろいろな患者について、ゆっくり面接することができた。

2008年8月30日土曜日

My name is Kenta...

...and I'm a caffeine addict.

本当はDSM-IVでは、caffeineに関してはdependenceは定義されないのだが、まあ、そこら辺は話をおもしろくするために、大目にみよう。一端dependenceの診断を受けたら、一生、その物質に関しては依存状態にあると定義される。

だから仮にcaffeineに関してdependenceが存在したとしたら、僕は、「dependence with sustained partial remission」ということになるだろう。大学の頃は、まさしくこの通りだった...



A maladaptive pattern of substance use, leading to clinically significant impairment or distress, as manifested by three (or more) of the following, occurring at any time in the same 12-month period:
  1. tolerance, as defined by either of the following:
    (a) a need for markedly increased amounts of the substance to achieve intoxication or desired effect (該当)
    (b) markedly diminished effect with continued use of the same amount of the substance (該当)
  2. withdrawal, as manifested by either of the following:
    (a) the characteristic withdrawal syndrome for the substance (refer to Criteria A and B of the criteria sets for Withdrawal from the specific substances) (該当)
    (b) the same (or a closely related) substance is taken to relieve or avoid withdrawal symptoms (該当)
  3. the substance is often taken in larger amounts or over a longer period than was intended (該当)
  4. there is a persistent desire or unsuccessful efforts to cut down or control substance use (該当)
  5. a great deal of time is spent in activities necessary to obtain the substance (e.g., visiting multiple doctors or driving long distances), use the substance (e.g., chain-smoking), or recover from its effects (該当)
  6. important social, occupational, or recreational activities are given up or reduced because of substance use (該当せず...自覚がないだけだったか?)
  7. the substance use is continued despite knowledge of having a persistent or recurrent physical or psychological problem that is likely to have been caused or exacerbated by the substance (e.g., current cocaine use despite recognition of cocaine-induced depression, or continued drinking despite recognition that an ulcer was made worse by alcohol consumption) (該当)

Sex Addiction

X-FilesのDavid Duchovnyが、「sex addiction」でリハビリ入院したそうだ。DSM-IVには、こんな診断はないのだが、レジデントによると「sex addction」は、性障害NOSではなく、衝動制御障害NOSと分類されるのではないか、という。性に関連した障害があるわけではない。今日はまた入院患者がほとんどいなかったので、そこら辺の雑談から入って、衝動の制御に関連した疾患と診断基準のミニ講義となった。指導医がきてのroundsでも、そこらへんのdiscussion(雑談?)が続いた。

一つ学んだことは、DSMの診断は、必ずしも実体のあるものではなく、それこそ、仮「診断」(とそれに基づく治療・病態研究)と「統計」の「手引」なのだ。もちろん、いろいろな症例で繰り返し同じような現象がみられることも、驚くべきほど多く、その意味では仮診断でも相当的を射たものがあることは、間違いない。でも、病理機序についてはっきりとした結論が全くない以上、それは仮の分類に過ぎないことも、確かなようだ。