2008年12月2日火曜日

肺癌

典型的な症例の患者さんが来ないか、などと変なことを思うと、願いが叶ってしまいかねない。今月は主に低所得者層の患者が多い大病院なだけに、無保険の患者がやたら多い。最後の最後まで医者にかからず、とんでもない状態にまで病期が進行する。で、最後に「典型症状」を呈して救急に転がり込んでくるのだ。救急では、無保険でも、見ざるを得ない。第3世界のような話だが、アメリカの大都市ではどこでもある話。そんなのをあまり知らずに、日本では、アメリカの医療システムが凄いと勘違いする節があるらしい。

30間年にもわたって毎日1パック吸っていたら、本人もうすうす感づくものだ。一ヶ月前くらいに「魚の骨」をのどにつかえたころから、息が苦しくなってきて、声もしわがれてきた。1ヶ月で10キロほど痩せたという。空気だけのはずの大動脈級の上、気管の真横に、大きな大きな何かが居座っている。ついでに帰ってきた血液検査は、歩いて入院してきたのが嘘のような低ナトリウム血症、肺の小細胞癌なんかではよくある、SIADHなのだろう。鎖骨上リンパ節は、転移しやすいわけだが、もちろんコリコリ。歩いて入ってきた患者さんに、もう数ヶ月もないかもしれない、と、誰が告げるのだろうか。

あともうひとり、黄色い水風船のような、末期腎不全の患者。南米移民にやたら多いようだが、アルコール中毒。もう今月、3人目である。この患者は若干、英語を話すからよい。血小板が限りなくゼロに近く、体中に痣。しかも、目が黄色いので、猫のようだ。この人、町のある大学病院の救急から、2,3度、ろくに治療を受けずに追い出されている(カトリックであるうちの大学では、もちろんそんなことはないのだが、だからこそ、経営不全で大変なのだ)。FAXで診療記録を取り寄せたら、ほとんど何もしていないのが手に取るようにわかる。そう、病院によっては、救急ですら、血でも垂れていない限り道端におっぽりだされるのだ。まあ、利益事業としての医療の、必然の帰結ではある。そして、宗教系の大学病院や今いる公益法人のようなところに、回り回ってくるのだ。この国、本当に、終わっている。

皆さん、今晩寝る前に、神でも仏でも親でも何でもいいので、感謝の祈りを捧げましょう。

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