2008年11月30日日曜日

70-30 rule

回診中の口頭試問で、「さてこれは何%の症例とで見られるでしょうか」などと聞かれて、全く見当のつかないときは、70-30 ruleの出番である。まあ、よくあることだと思えば、70と答える。それほどはなさそうだと思えば、30と答える。

だいたい上下10-15%は大目に見てもらえるとして、これでだいたい、30%の幅が稼げる。さらに上級編としては、70のところを間違えて30と答えた場合には、「Oh, I thought you meant how many AREN'T malignant...」などと質問をひっくり返して誤魔化せば、また30%、つまり合計で60%の範囲を、カバーできるのだ。

2008年11月29日土曜日

世情

恐ろしい。

政府支出によって成り立つ、首都ワシントンDCですら、道を歩いていても、寒風が吹きすさんでいる。治安も悪化。ドルは超インフレへ向けて、毎週のように新しい政府支出案が提示されている。年明けにはイランあたりで戦争をオッパジメそうな気配も。同世代の若手研究者はもちろん、全く関係ない業界の知人たちも、おしなべて別の国に引き上げ始めた。

もしも仮に2011年度にインターンをしたとしたら、どこの町にしても、相当どんぞこであろう。そしてアメリカの傾きかけた医療体制は、よくても立て直しのまっただ中、恐ろしい混乱状態の中で研修をすることになろう。悪くしたら、今の状況のまま、徐々にじり貧。でも、これから研究はもっと暗黒時代となることを考えると、免許くらいとっといた方がよかろうというのは確か。混乱と読んでいるのなら、なおさら免許を、とある知人はいう。正論ではある。

2010年、ないし2012年あたりにドイツに居着いたら、畑でも始めた方が良さそうだ。経済情勢に詳しい別の知人と会食していて、半分本気で、こんな話にすらなった。農学部時代にはトラクターを運転する実習もあったし、作物の肥料のNPK比とか、たぶん記憶の彼方をかき回せば、美味しいジャガイモくらいは作れるかもしれぬ。

Midazolam

Versed anterograde amnesia

2008年11月28日金曜日

Pager

感謝祭で、学生は、4日間休むことになっている。レジデントには当然いってあるのだが、インターンの一人に連絡を忘れていたようで、今朝、試験勉強していたら鞄の底からポケベルの呼び出し音が。本などに埋もれて、ほとんど聞こえない音量だったのだが、「ハッ」と気づいて、返信した。

インターンにもし進んだとしたら、さらに、このポケベルに追い回されることになるのだろう。

2008年11月27日木曜日

Trichotillomania

眼科のインターン。一年目は、インターンとして普通に内科で働いてから、3年間の眼科研修に進む。で、その眼科インターンの一人が、抜毛症なのである。内科セミナーで後ろに座って気づいたのだが、時折、右後頭部をなでて、何回かは抜毛も。髪の毛で隠れているのだが、よく見ると、500円玉くらいの禿たところがある。別のチームのインターンなのででよくわからないのだが、いつもネオン色の派手なネクタイを締めている以外は、ごく普通の人のようだ。

精神科の教科書だけの話では、ないのだなあ。

2008年11月25日火曜日

¿Tiene usted dolor?

恐怖の初スペイン語患者。翻訳電話を使えば、ちゃんと話すことだってできるが、まあ、だいたい片がついて、まあまずあり得ないmeningitisさえrule outすればOKな段階では、翻訳電話がなくても問題なかろう。

しかしこの患者、さぞかし心細いことだろう。もしも僕がドイツで病気になったら、似た状況になるかもしれない。もっともドイツ人の医者はみんな英語を話すが。でも、看護婦さんあたりは怪しい。翻訳電話もないだろう。

だからスペイン語どころの騒ぎではない、むしろ、ドイツ語を勉強すべきだ。

PGY - (-2)

PGY、post-graduate year。Medical schoolを卒業して1年目のresident(つまりintern)は、PGY-1(R1)、といった具合である。たとえば、内科研修3年目を終えて心臓血管内科fellowship3年目であったら、PGY-6になる。レジデント・フェローの給与はだいたいどの科も、病院によって、このPGY年ごとに決められている。

で、今日、新しい表現をきいた。PGY- -(マイナス)2。3年目医学生、普通は「third year」、「MS-3(medical student)」ないしは、出身校の頭文字(Georgetownの場合はGT-3)をとっていうのだが、出過ぎた真似をした医学生は、「PGY - (-2)」と称するらしい。

2008年11月24日月曜日

研究と病院と

1週間半にわたって、当地ワシントンでの大国際学会(北米神経科学学会、3万人以上!)で、ドイツの友人(日本語に直せば、後輩?)が泊まっていたので、大忙し。そのほかも日本の知人・友人、ドイツの知人・友人などを案内したり、ちょっと無理した感じ。本腰を入れて、3週間後のshelf試験勉強、開始。

で、毎晩のように研究の話題で話し合っていると、それが天職のようにも思われる。だが病院のほうも知識が1段、上達していて、面白いといえば面白い。日本の先生から、「医師免許は取っておいたほうがよい」という強いアドバイスをいただいて、いろいろ考えたりもする。

まあ、あと1年半はmedical schoolの卒業、そしてその後1年間はドイツでHumboldt財団研究員が決まっているので、そこら辺はいまから悩んでも致し方ない、というのが正論ではあろう。

2008年11月23日日曜日

On Call

日曜のコールだというのに、一人も入院患者が来ない。この関連病院は、ワシントン1の大病院だというのに。(関連病院、とはいっても、実をいうとこの病院の母体である公益法人が、大学病院を買収した関係にあたるのだが)

で、レジデントが、「先にかえっていいよ」と。

こんな時に不思議な気分になる。実をいうと、「珍病・奇病や、典型疾患でも重篤でclassical presentationの患者さんがこないか」などと、ふと、ふとどきなことを思ったりしてしまう。人の不幸を直接願っているわけではないのだが。でも、早く帰って、勉強しないと、3週間後の内科shelf試験が、ヤバイのも事実。

それが終わると、2週間、ドイツで、実験ができる。そんなクレイジーなこと、やめときゃいいのにね。

Rx... underpants, Disp... x1

チームのレジデントが、術後用のメッシュの下着の処方箋を書いた。患者から要求されたのだという。どうやら患者は、処方箋に書いてあれば何でも保険が通用すると考えている節があるのだ。

2008年11月17日月曜日

When you grow up...

What do you want to be when you grow up?
おおきくなったら、なにになりたいの?

レジデント・指導医が学生に志望科を訊くときは、こういう表現を使ったりする。

2008年11月16日日曜日

免許

土曜から水曜まで、北米神経科学界がワシントンで開かれている。普段なかなか会う機会のない友人・知人と話す絶好の機会なので、土・日だけ、参加。日本から2組、ドイツから2組を、少し郊外のレストランに案内。ワシントンは国際的な都市だけあって、各国の本格料理が、比較的やすく食べられるのだ。タイ料理、中華料理、韓国料理... もうしばらくは、ご飯と納豆で十分だ。

いつもアドバイスをいただいている、博士の指導教授つながりの従兄弟弟子の先生からは、日本に帰る気があるのなら、免許を取っておいた方がよいとのこと。だが、1年間の研修をアメリカでして、アメリカの免許を取得しないと、日本の国家試験は受験資格が生じないようだ。それでも、受験資格が生じるという保証も、ない。脂ののりきった実験屋の1年というのは、馬鹿にならないのが、困る。

だが、日本でサイエンスをしていると、ちょっとしたことで、だいぶ違うらしい。正論では、ある。

2008年11月15日土曜日

I'm Pulling Out Now

今日はクリニックの産婦人科の診療看護婦(Nurse Practioner、限定された医療行為を行う資格を取得した正看護婦さん)について、pelvic examを習った。医学部2年生の時、模擬患者で練習させられたが、オバアサンの模擬患者と、本物の若い女性では、考えてみれば当然だが、天地の差だった。

まあそれはどうでもよいのだが、speculum(膣につっこんで開くやつ)を抜くときに、「OK Ma'am, Try to Relax, It's Over, I'm Pulling Out Now」とかいったらしい。その患者が終わってから、うん、あなたこういったでしょ、「I'm removing the speculum」とかいう感じの方がいいよ、と指摘された。

もちろん、pulling outというのは性的なovertoneがあるから、こう指摘されたのだが、やっぱり無意識に使ってしまう言葉というのは、難しい。あとで普段ついているpreceptorのオバチャン女医さんに話したら、「あら、私ももしかしたらそういっちゃっているかもしれないわ。なるほど確かに気をつけた方がいいわね。」だそうだ。ということは、やっぱり、難しいのだ。

2008年11月12日水曜日

Primary Care

今日はある遺伝性hypercoagulabilityの患者さんだったのだが、ついている家庭医が愚痴っていた。「同じ患者さんでもね、内科医が診ると、初診45分、再診30分なのよ。私なんて、20分でしょ。こんな複雑な患者さんを20分ですべてマネージしろというのかしら。」

アメリカのプライマリケアは元来、じっくりと人間関係を築いて時間をかけてみるモデルなので、現代のマネージドケアでは、なかなかうまくいかない部分が多いようだ。と同時に、プライマリケアに一番、ツケがきているようだ(NEJM関連記事)。

帝王学

今月働いている外来クリニックのディレクターは消化器なのだが、管理職の合間、少人数ではあるがまだ患者さんを持っている。おもしろい患者さんがあると、「ちょっとケンタ」とかいって、普段ついて患者さんをみているお医者さんのところから、連行される。で、患者の前で冗談を言いながら口頭試問(いわゆるpimping)を交えて、いろいろ教えてくれる。

今日別れ際に一つ、どういう具合だか、帝王学を授かった。気に入ってもらっているのだが、毛並みがよいと勘違いされているのだか、どうして僕に対してそういう帝王学を授けてくださったのかははっきりしないのだが、でもいずれ研究室を統率もしたいので、ありがたい。で、大左がいうには、「下の人を褒めるときは、なるべく他人の前で。下の人をしかるときは、必ず、プライベートで。」

このディレクターはいろいろ勝手なことをしながらも、クリニックの若い丘率たちから老暈医たちまで、総じて慕われているようだ。それは指渾官という上下関係だけではなく、帝王学ができている、ということもあるのかもしれない。

薬の値段

頭痛治療の講義。

Sumatriptan/IMITREXといった類の薬は、実を言うと結構な値段らしい。今のご時世、患者によってはろくに薬をカバーしない保険も多いので(無保険の患者はどこの病院・医院でも、事務で追い払われるので、とりあえず心配しなくてよい)、薬の値段については神経を使わなくてはならない。かといって、片頭痛なんていうのは、ほかにはあまり手の打ちようがないようだ。

ePocratesを調べると...
  • 25 mg (x 9) $214.01
  • 50 mg (x 9) $199.25
  • 100 mg (x 9) $199.25

なぜか、弱い錠剤のほうが、高い。で、講義した先生。たとえば50 mgではじめる場合、以前は100 mg錠を処方して、患者に半分に切って服んでもらっていたという。つまり患者にとっては、半額セール。だが、薬屋さんもだまっちゃいない、錠剤を、切りにくい三角形に変更したのだそうだ。だから、この手は、もう、使えないという。

薬理学みたいのは医学生だから勉強するのが当然だろう。でもそれに加え、薬価、さらにどの薬がどの保険でカバーされるか、さらにさらに錠剤の形状まで把握しろ、というのか?

何かおかしい。

2008年11月9日日曜日

Georgetown内科 入院病棟の一日

今月は外来で、働いているクリニックはとても文化的にもおもしろいのですが、公的機関なのであまり具体的なことは書けない。木曜と金曜の午後はクリニック敷設の放射線科のeducation timeで老放射線家医と一緒に超音波とか読影を教わっているのだが、ブログはだいたい、その老先生のいったことなどが中心となっている。

なので今日は書き残していた、先月の話。



チーム構成
指導医、レジデント、インターン(1年目レジデント)、acting intern(4年生学生、subinternとも呼ばれる、事実上インターンと同じ仕事)、medical students(3年生)



   (04:30- 研究活動: 物書き、読み物、ドイツの学生さんとSkype、データ解析など。Blogを書いて時間つぶし。)
   06:00-08:00 その時の受け持ち患者の人数によって、病棟に出る時間が変わってくる。病棟に行って、朝の血液検査や血圧体温、I/Oなどを確認の上、簡単に診察。先日帰宅後の出来事(night floatのオーダーなど)や看護記録などに目を通す。看護婦さんが暇そうだったら、一晩の様子をきく(看護婦さんのシフトは19:00-07:00)。カルテに朝のprogress note(SOAP)を書く。(つまり、internとだいたい同じことをするのだが、internの来る前にnoteを終わらせてあって信頼されていれば、internは正式なノートを書かずに、付記として重要な所見とA/Pだけの簡略なノートを書いたりもできることになっているので、とても感謝される。あと、internにnoteについてコメントをもらったりする。)
   08:00-09:00 朝の学生症例検討会または、grand rounds講義。
   09:00-12:00 レジデントによるチーム回診。各患者について、昨日以来の状態や新しい検査結果について、30秒-120秒くらいで口頭プレゼン、その日のコンサルト・検査・薬の変更・attendingと打ち合わせるべき点などについて話し合うとともに、口頭試問・ミニ講義。患者に顔を見せて、簡単にレジデントも診察。日によっては、途中から指導医も合流して、口頭試問・ミニ講義の部分がもっと幅を占めてくる。
   12:00-13:00 昼のレクチャー(ラッキーな日には、薬屋さんの弁当。アンラッキーな日には、科から至急のピザ)
   13:00- 3rd yearの講義。1,2時間。
   14:00/15:00- チームの当直日ではない場合は、レジデントに返れといわれるまで、レジデント・インターンに言われた雑用をこなす。特別な検査などがある場合は、患者に付き添って一緒に行ったりするとおもしろい、科によってはいった先でいろいろまた教えてくれる。チームで一番暇なのが3年生の学生なので、いわゆる日本語で言うムンテラも、実をいうと、午後の重要な仕事。
   17:00/19:00- 帰宅後、試験勉強など

Cluster headaches

Very rare, who gets them? In episodic types (90%), when do they occur?
Unilateral lacrimation/flushing/nasal sx syndrome... functional colocalization?

Migraine aura

Keys to mechanistic understanding of population physiology
Prodrome up to -24 hrs?!
Aura (classic maigraine)
Physiological triggers

unilateral but not always consistently localized
(scotoma aura bilateral homonymous???)

2008年11月8日土曜日

月月火水木金金

先月の成績を見るためにたまたま、履修科目一覧を覗いたら、恐ろしいことに気づいてしまった。

05:00-21:00。月火水木金土日。
16時間 * 7日 = 週112時間労働。

Residentの労働時間は基本的に80時間キャップで、あまり派手に違反すると、研修プログラムの認定を取り消されてしまう。でも、medical studentの労働時間には、制限はないので、こういう恐ろしい記述がみられるのだ。現実には、一番ひどい外科とかでも週1くらいは休めるし、現在の外来ブロックのように、9時間*4日=週36時間(月曜は講義など)という、楽なブロックもある。もちろんこの記述は当直とかは勘定に入っていないところからしても、便宜上の記載ではある。でも、theoreticallyには、週112時間拘束されても、文句はない。

現在の体力で研究室で働いていると、100時間を超えたあたりで、実験のできや頭の冴え方に響きすぎて、悪循環におちいる気がする。ドイツでは、ヨーロッパ流にもっと悠々自適にやっていたが、意外とその方がproductiveだったものだ。

Autism concordance

MZ high but DZ low

Fibromyalgia and sleep disturbances

pain syndrome?

2008年11月7日金曜日

What is the most important organ in the body?

人体で一番重要な臓器は、患者の主訴の臓器なのだそうだ。たとえば、耳が痛いというのなら、耳。Physical examinationの教科書通り、系統だって頭から足まで順に診察したのでは、患者は無視されている気がするのだそうだ。そして主訴の部位について、すぐにpertinentな所見がすべてとれてしまった場合でも、主訴の部位については、もうひとしきり念入りに診察すると、患者の気が済むのだそうだ。

でそれを教えてくれたのはクリニックの老放射線家医で、現在ではほとんど患者に手を触れることはないのだが、たとえば腹部の超音波検査をする際などは、必ず患者に痛いところ・気になるところなどをきいた上で、そこにプローブを当てて始めるのだという。たとえそれが、主訴とは関係ないと思われる部位であっても、あるいは超音波では何も見えない部分だったりしても、まずは痛いところにあてて始めると、患者の気が済むのだそうだ。やっぱり医者は超級サービス業だ。

2008年11月6日木曜日

胸部X線写真の左右差

最新の単純X線写真は解像度が恐ろしいほど高い。筋肉や靱帯や、小腸のループまではっきりと見えてしまったりもする。一つには高解像度デジタルモニターでcontrast, brightness, zoomなどを自在に調節できる、というのもあるのだろうけれども、デジタルカセットや放射線源そのものも、少量の放射線でくっきりとした写真が撮れるよう、技術革新が進んでいるのだという。

で、こういう技術革新でわかることとして、正しく撮影されたCXRでは、lung markingは一般にいって男性の場合右、女性の場合は左の方が明るいらしい。右利きの男性は通常、右の大胸筋のほうが大きく、よって、右がより白く写るのだという。右利きの女性は通常左の乳房のほうが大きく、よって、左がより白く写るのだという。確かに、筋力トレーニングに凝っている男性患者で、表示設定によっては一瞬右側の浸潤と読みたくなるくらい左右差のある症例をみた。(そういえば以前も、大学病院のローテンションで胸部X線のミニ講義の際、右側のmastectomyによって左側全体の方が格段に白く、まるで教科書のような肺炎に見えるフィルムを読まされたが、そこに居合わせた10人くらいの学生で、右のbreast shadowがないことに気づいたものは、一人もいなかった。)

で、大胸筋・女房の左右差について教えてくれた放射線科医の老暈医は、女性の乳房左右差についてのdirty jokeをいっていたが、公の場ゆえここでは割愛する。いずれにせよ、優れた臨床家は、教科書や機械主義的な人体観には収まりきれないようなこういった人体生物学を、有していたりするようだ。

あと、そのおじいさんによると、academic medical centerの放射線科医は重病人の画像ばかり読んでいるため、ある意味では全体観が偏ってくるのではないか、という。彼によると、暈みたいなところにいると健康な画像をたくさん読むので、ある意味では画像に対する感覚が研ぎ澄まされるのではないか、という。

2008年11月5日水曜日

Wallet sciatica

財布を後ろポケットに入れる男性は、時として、これに関連した片側性の坐骨神経痛に罹患するらしい。

2008年11月4日火曜日

過誤保険、対象外

現在アメリカの開業医の間で話題の訴訟例。



障害者に対しては法律上、適切なコミュニケーションを供与する義務が、医療者に課せられているらしい。たとえば聴覚障害者なら、筆談でもよいのだが、それでは現代の20分診療でとても間に合わない。だから、聴覚障害の患者なら、手話通訳を手配する義務が、開業医に課されるという。(その患者がドタキャンでもしようものなら、手話通訳代は、完全に医院の赤字となる。)

で、ある開業医が手話通訳を雇わずに、聴覚障害者のSLEか何かを治療したそうだ。治療は適切で寛解にいたったのだが、治療とはまったく関係なく、「コミュニケーション措置不十分」、ということで、この開業医が訴えられて、敗訴したらしい。悪くしたことに、この「コミュニケーション措置不足」は医療過誤ではないため、過誤保険ではカバーされないのだという。



10分前にオバマの選挙勝利がほぼ確定したが、ここまでずたずたの医療制度では、「メシア」と称される彼にしたって、手も足も出ないかもしれない。財政も大赤字だし。

カルテは簡潔に(2)

カルテは記号だらけで、独特の言語である。Physical examなんて正常ならば、殆ど文字の羅列で書くことができる(一応、翻訳つき):

VITALS T 36°C Tm 36.5°C HR 80 BP 120/80 (115-125/75-85) RR 20 SPO2 98% (RA) (temperature (24 hour max), heart rate, respiratory rate, blood pressure (24 hour range), O2 saturation on room air)
GEN WDWN NAD (well developed, well nourished, no acute distress)
HEENT NCAT (Head, Ears, Eyes, Nose, Throat, normocephalic, atraumatic)
   PERRLA (Pupils equally round and reactive to light and accommodation)
  MMM (Mucous membranes moist)
  EOMI (Extra ocular movements intact)
NECK supple, full ROM (range of motion)
  ØJVD, ØLAD (no juglar venous distension, no lymphadenopathy)
CV RRR ØM/R/G (regular rate and rhythm, no murmurs, rubs, or gallops)
PULM CTAB (clear to auscultation bilaterally)
ABD NTND NABS (abdomen nontender nondistended, normoactive bowel sounds)
EXT Øc/c/e (extremities no cyanosis/clubbing/edema
NEURO CN II-XII intact (Cranial Nerves)

2008年11月3日月曜日

履歴書

先週は一緒にクリニックで働いた軍医学校の3年生の最終日だった。で、クリニックの所長につれられて、二人で敷地の案内を受けた。軍病院にマッチする彼にとっては、暈医からの推薦状が特に重要なわけであるが、彼はすかさず履歴書を渡していた。それはつまり、来年のマッチの時期には、推薦状をお願いいたします、という彼の意思表示である。

でひとつ、大左から彼に対してアドバイスがあったのは、こういう非公式な履歴書には顔写真を掲載するとよい、とのこと。「君はとびきり優秀だったから忘れないけれどもね、一般にいって、毎年何十人という学生さんがこのクリニックに来るわけでしょ。だから、履歴書も顔写真がついていると、推薦状を書くときに思い出すのが楽なんだよ。」

ついでに僕も「You should do this too, Kenta」と指令を受けたので、久しぶりに履歴書を更新。顔写真を入れた。

テーブルを囲んで

(挙げ忘れていた記事です、書き足すつもりだったのですが)

ここの精神科では、指導医は一応「Dr.○○」と呼んでいる。でも、みんなでテーブルを囲んで患者に関して話し合ているので、それ以外はヒエラルキーはほとんど感じられない。

放射線科では液晶画面を囲んで半円形だったので、これはトリエント・ミサの感じか?精神科は2次ヴァチカン公会議以降。

2008年11月2日日曜日

血糖

先日は、外来でついて教わっていたお医者さんが施設内の救急当番だったので、緊急出動した。たぶん糖尿病治療の不具合で低血糖、LOCの女性。あきらかなdeliriumだったのが、水飴みたいのをなめさせられて、それでやっと静脈がとれたのでD50を入れたら、注射が終わるか終わらないかのうちに、たちまち普通の会話をしだした。

こういうのだから、脳の研究は難しい。特に小動物であればあるほど、実験下、こういうhomeostasisは簡単に狂うのだが、脳を単独の機械のように考えていると、そういうのを見落としやすい。低血糖・低体温で結果がでなかったりするのはまだよいのだが、あきらかに過呼吸性の癲癇様波の実験結果を平気で出したりする人も、少なくはない。

白衣の重み(内科編)

別に、professionalism云々の話をしようというのではない。単純に、白衣にいろいろな本を詰め込んで、重い、という話。内科の入院病棟のローテーションは、誰でも、一番重いという。先日興味半分に量ったら、2.2 kgもあった。肩がこるわけだ。

  • Maxwell Quick Medical Reference... 検査標準値やカルテの記入事項、公式、採血試験管の色など、あんちょこ(ほとんどの同級生が携帯)
  • Pocket Medicine: The Massachusetts General Hospital Handbook of Internal Medicine... 内科あんちょこ(ほとんどの同級生が携帯)。回診の最中などに復習するのによい。
  • The Sanford Guide to Antimicrobial Therapy, 2008 (Sanford Guide)... 抗生物質あんちょこ(ほとんどの同級生が携帯)

  • 学校支給のPalm... ePocratesとUpToDateが入っている。ePocratesは薬が主だが、計算公式も、時々便利。UpToDateは回診の直前に、口頭試問されそうなことを読むのに、便利。蓄電池もPocket PCに比べて長持ちする。
  • 東芝 Genio... 学校で支給されたPalmは日本語ができないため、PDA機能はあまり意味をなさない。EMailは無理にしても、カレンダー・taskはすべて英語で書けばよいのだが、なんといっても漢字は面積あたりの意味内容の密度が高いので、やはり便利。あと、日々使用している暗記ソフトも、PocketPCでないと、動かない。

  • 学校支給のポケベル... これがないと病院では機能できない
  • 聴診器... 記名必須
  • ペン... 指導医に「ペンない?」と聞かれたとき、あるいは患者にものを書かせるときのために、安いペンをいくつか持ち歩く、これは手元に戻ってはこない覚悟。自分用には、書きやすいものを。学生は基本的には黒以外を使用してはならないという、暗黙の了解がある。指導医だと青いペンを使ったりする人もある。
  • メモ用のノート(小)
  • メモ用のindex card/付箋... 人に渡す場合に便利
  • 定規
  • pocket light... 一応PERRL(pupils equal and round, reactive to light)と書くのに必要
  • reflex hammer... 先日ある先生に、「neurologyに少しでも興味があるのなら、もう少し重量感のある、ましなreflex hammerを使うべきだよ」といわれてしまった。その先生の重いのを使うと、確かに、腱反射がとてもとりやすい。でも、肩が...
  • 手袋
  • 消毒用アルコールガーゼパック... USMLEの規定では、聴診器の使用後は毎回アルコール消毒するか、ないしは、聴診器のあたまに手袋を被せて、患者に直接触れないようにしなければならない。そんなことを普段する人はいないわけだが、この消毒ガーゼ、食後の手拭きなどとして、意外と便利。
  • GUAIACカード... 1,2枚ポケットに忍ばせておいて、損はない。

  • Clinician's Pocket Reference... いわゆるScut Monkey Handbook。検査内容、手技など、Maxwell よりもだいぶ詳しいが、重いので携行はやめようかと思う。急に、「ちょっとparacentesis」とかいうときに、復習に便利。
  • Bates' Pocket Guide to Physical Examination And History Taking... 週に1回くらい、見たくなるが、これもちょっと不必要であろう。

というので現在は、腰巾着みたいなのを買って、白衣の下に装着している。肩への負担は、だいぶ減った。

2008年11月1日土曜日

Normal Values

臨床の現場でも、全国共通のshelf exam*についても、USMLEについても、検査のreference rangeをおおよそ覚えている必要がある。ShelfやUSMLEではreference rangeの一覧が与えられるが、時間制限が甘くはないので、いちいち参照していてると見直しなどの時間などがとれない。Roundsなどで、CBC/Chem-7/LFT以外の検査でも覚えていないと、いちいちMaxwellなんかを参照することになって、恰好わるい。

以下20頁などを参照。
http://download.usmle.org/2009step2ck.pdf

*shelf exam... 各科のローテーションの最後に行われる試験、USMLEと同じ協会が発行している

Osteopathic Medicine

アメリカの医師には、二種類いる。一番ふつうなのは、allopathic physician (MD)。これは、歴史的には蝦蟇の油売りのような流れに端を発する。もう一つ、人数は少ないが、osteopathic physician (DO)。これは、歴史的には、整体のような流れに端を発する。現在ではDOは主に、家庭医療に携わっている。

木・金と、クリニックの老軍医の外来で働いた。DOである。血圧とか高脂血症とか、そういうのはMDもDOも同じ治療をする。でも、mechanicalな背部痛とかになると、豹変。もちろん神経の圧迫や心血管系その他の危急な鑑別は除外するのであるが、musculoskeletalな背部痛については触診で、どの筋・どの靱帯が痛んでいるのかと、骨格の歪み・癖を特定してから、整体が始まる。どの筋・靱帯を治療するかによって、患者はいろいろな風に腕を組まされたり、俯せ、仰向け、いろいろである。小柄でやせた老軍医が患者の上にまたがるようにして体重をかけると、ボキボキと音がしたりする。で、「ああ、うまく外れたでしょ。感じる?」

2日でそんな患者さんが5,6人は、いた。変化のなかった1人をのぞいては、皆、急に楽になったので、驚くとともに感謝していた。西洋医学は澄まし顔をしていることが多いが、その反面、どんどん生身の患者からは遠ざかっている。血液検査と完備された薬局がなければ何もできないような、そういう医者も多い。レジデントの中には、さらに、専門コンサルトがなければ本当に何もできないのではないか、と疑わしい人もいる。しかしDOにせよ、MDにせよ、年配の医者と働くと、そういう傾向は医学の重要な本質を見失っているのだということが、肌で、感じられたりする。

現代の、多忙で高度専門化した医療システムの中で、そういう医者を目指そうとしたら、それこそ、時代の流れに抗うライフワークであろう。とても、研究の片手までできるような、生半可な営みでは、ない。

Diagnosing the Untreatable

「おそらく臨床研修には進まない」などということをいうと、いろいろと説明が面倒なので、志望科を聞かれたときは、「神経内科がもっとも可能性が高いけれども、まだわからない」と答えることにしている。春先あたりになってきたら、この答えでは通用しなくなるのが、考えただけで面倒くさい。

で、そのstandard answerをいったら、「Oh, a neurologist, eh? You want to diagnose the untreatable, and treat the undiagnosable, OK。治療できない疾患を診断して、診断できない疾患を治療しよう、ってやつね。」とからかわれてしまった。

脳の研究に従事すればするほど、この言葉が真実をついてる部分があることは、否めない。神経内科の疾患というのは、診断がついた頃にはもう根本的には治療できないものと、脳の複雑性から発するために単純な化学療法では手も足も出ないようなもの(あるいは金槌で時計を修理するようなもの)が、ほとんどである。