2009年1月25日日曜日

号泣

病院実習での号泣は、はじめて。もともと涙腺の緩い方ではあるし、いろいろな面でストレスの発散を押さえられない性格でもあるので、特にこれから春先に外科の3ヶ月に突入すると、便所のお世話になることも増えてしまうかもしれない。



その子は、原因不明の嘔吐と失神が3年以上にわたって続いていて、何人もの専門家を回ってまだこれといって診断がついていない。まあ、そこまでいうと大抵の人の鑑別の1位は、精神関連のなにかとなる。でも家庭も普通に円満であったり、嘔吐が睡眠中にも起きることなどから、考えにくい。座って雑談していても、普通に闊達で元気な中学生だから、どう頭をひねっても精神疾患の画にはまらない。児童精神科のコンサルトも、そういう。で、一応、自律神経失調というわかったようなわからないような診断がついてはいるのだが。

その子が、workupの一環で胃カメラを飲んで、胃に大量の胆汁逆流が見えた。消化器ではあわてて画像検査をしよう、とバリウム用にNG tube(Magensonde)を入れた。吐いてしまって、ふつうにはとても、飲めないからである。

胃カメラはsedation下で行ったのだが、そのsedationからさめたとき、入院して初めて、その子は泣いた。「いやだ、いやだ、もう退院する~。この鼻のチューブもいらないからさ~!」中学生だから、それまでは、結構まじめに検査の内容などを説明したりしていて、お母さんと一緒にまじめに聞き入ったり、質問をして、とてもしっかりした感じの子だったのが、NGチューブひとつで、たちまち、ただの子供に変容。お母さんと一緒に一生懸命なだめたのだが、途中でどうしょうもなくて、失礼して、便所で号泣。

そもそも、miserableなのはその子であって、僕ではない。だから筋は通っていないのだが、当直あけの疲労・ストレスと、無力感と、経験ゼロなのに学位のためにこの子を朝から晩までつつき回している罪悪感と、そしてその子をそれまで「interesting case」としてしかみていなかった罪悪感。興味深いかどうかは、その子の知ったことではない。実をいうと単に、miserableな子供にすぎないのだ。



それだけの理由ではないが、もしも臨床をするとしたら、小児科がいいような気がする。医師としてもそうだろう。別に喫煙で肺ガンになったとか、飲み過ぎで肝臓が石のよう、とか、食べ過ぎで体中の血管が脂ぎって石灰化、などという大人の疾患は、いけないとは知りつつも、同情しにくい。その点、子供には罪がないし、治療の善し悪しによる、先々の人生への影響も絶大だ。研究の上でも、一般小児科ほどいろいろな変わった医学的不可思議に出会える場は、なかろう。子供の体はダイナミックに形成される過程にあるため、臓器ごとの意外なつながりからくる症候群も多いし、謎も多い。すでにpigeonholeされた患者しか診ない専門医よりも、ある意味、おもしろいかもしれない。

だから「What do you want to go into?」というおきまりの質問が次きたときには、気をつけていないと、「pediatric hospitalist」と口を滑らせてしまうかもしれない。

まあ、免許取得のために一般内科(つまり大人)のインターンを1年する、その後は基礎研究に没頭、という大枠のプランには変更はないが、小児科の1年間のpreliminary programというのも、ごく少数だがあるようなので、考えないこともない。

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