2008年10月26日日曜日

アメリカ、大丈夫?

これからアメリカは、当面、先の見えない闇に突入する。金融危機と貯蓄率の低さによる国家財政危機は、いうまでもない。自由市場主義による国内産業の空洞化による、失業率の高騰も、まあ、当然のことである。

暫く収拾のついていた治安悪化だが、これも、これからどうなるかは知れている。ただでさえ、日本や諸先進国とは比較するとまるで冗談のように世情の不安定な国である。たとえばワシントンDC。国会議事堂のすぐ裏手、町の南東の一角は事実上、立入禁止地区である。その一角に迷い込んで射殺されたとしても、だれも、同情してはくれない。これ、まさに、第3世界である。



問題はそれらのみですむわけではない。医療システム・教育研究システムも、危機に瀕している。だが、数ヶ月前の金融界と同様の状況であって、医療システム・教育研究システムの危機には、気づかない人・気づかないふりをしている人が、ほとんどなのではある。

医療。国民の6.5人に一人が、無保険者。残りの85%とて、中産階級以下では、ろくな保険ではない人がほとんど。たとえば卑近な話、奨学金とともに支給されている学生保険は、大病をしたら、すぐに吹き飛んでしまうような支払い上限だ。より深刻な問題としては、完全市場主義的な保険から、予防医療に対する社会的な取り組みがほとんど皆無であることも、これから、つけとして跳ね返ってくる問題である。金融の行き詰まりと、構図は酷似する。

すでに、前兆は、はっきり現れている。たとえば、昨今の経済混乱の下、病院の半数以上は、破産または破産寸前の状態にあるという。無保険者が救急に転がり込んできたり、あるいは保険のある患者でも、民間保険会社の、医療機関に対する支払い率の低さから、まあこの病院倒産も、不思議はない(保険会社が、手前勝手に、値引きしたりするのである)。だが、医療という行為は、本質的に、金儲けという行為とは、矛盾している、だから社会単位で補わなければ、話にもならない。

しかも、この惨状は、ほかの先進諸国に比べ、国民あたり2倍近い出費をした上でのはなしである。本質的に、根腐れしているのだ。



教育研究。アメリカの教育は世界に冠たるものとされるが、それは、大学・大学院の話。高校以下は、一部の私学や裕福な自治体を除いては、燦たる状況である。だから、アメリカの研究教育を支えているのは、あくまでも、ガイジン1世・2世である。この状況は、戦中に逃亡してきたユダヤ人学者たちに始まり、アメリカン・アカデミア勃興の、陰の姿ではある。で、このたびの金融危機で科学研究費が大打撃を受けることは目に見えているので、この象牙の塔も、意外ともろく崩れ去る可能性すら、ある。

たとえば、生物系の研究費のほとんどを支給しているNIHは、このたび、研究費の再提出回数を、今までの2回から、1回に削減した。研究費申請がどんどん博打化するなかで、本質的に意味のある研究が廃れゆくことは、目に見えている。ノーベル賞にしても、アメリカが遠ざかっていくのも、無理はない。アメリカの賞とて、過去の爺様ばかりである。本質的に意味のある研究は、研究費につながるような「打ち上げ花火型」の研究とは、異なる次元にあるのだ。この傾向が進む可能性も、強いと見る。



こうして、アメリカの世紀は、終わってしまうのであろうか。

あるいは露落ちて花残れり。残るといへども朝日に枯れぬ。あるいは花しぼみて露なほ消えず。消えずといへども夕べを待つことなし。

3 件のコメント:

  1. 高垣さん、

    はじめまして。
    いつも楽しく拝見させていただいております。突然で申し訳ありませんが、ご相談に乗っていただきたいことがございます。

    米国医学部入学に関してですが、「医学書院」掲載の医学部入学のための過激な競争についての内容を加味した上でなお、米国医学部を目指したいと考えております。

    私は日本人、日本国籍であり、米国の4年制リベラルアーツ・カレッジのビジネス学部を卒業。現在は米国企業の医療部門・東京オフィスにて働いております。

    先日、コロンビア大学のpostbacc pre-med programから合格通知が届き、入学するのであれば2009年の春開始となりますが、米国籍やgreen cardなどを持たない身である故、決めかねております。

    御ブログのコメント欄にこのようなご相談を書く失礼お許しください。現在決心するまでの時間も少なく、様々な方からのアドバイスをいただきたいと考えております。

    もしよろしければ、高垣さんの視点からアドバイス・厳しいお言葉などお聞かせいただけると大変ありがたく存じます。

    よろしくお願いいたします。

    田中

    ysk23rbt@hotmail.com

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  2. 私もはじめまして。
    Jと申します。
    匿名さん同様、突然ではありますが、ご相談もうしあげます。

    私の娘も日本国籍の日本人。
    日本国内のインターナショナルスクールから、最近米国のリベラルアーツカレッジに合格が決まりました。インターナショナルスクール出身であるため、日本の大学に進むつもりがなく、アメリカの大学を目指しましたが、この数年自分の進路として医師を目指したい。という気持ちが強くなってきたようです。
    但し、我が家はごく普通のサラリーマン家庭であり、高校までの学費でさえも学校の奨学金をもらっておりました。大学の費用も奨学金で行かせる事になっています。

    日本国籍、日本人。米国リベラルアーツカレッジ(ランキングではとりあえず上位のカレッジです)を卒業した後、医師になれる道というのはあるのでしょうか?
    お恥ずかしい話ですが、右も左も全くわからず困っています。

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  3. Jさん、

    「方法がない」ということは、いろいろな抜け道を縫ってきた私からは、申し上げられない一言ではありますが、厳しい道であることは間違いありません。同級生でも、何人かはグリンカードがおりましたので、不可能ではないでしょう。しかし、特に、アメリカで奨学金を確保するのは、これから10-20年は、相当難しいかもしれません。ローンということでは、金融市場については、私にはまったく先行きはわかりません。

    金銭的な面ではまず、ご在学の州の、州立大学のin-state tuitionの規定を調べられるのも、様子を探る上では有用かもしれません。たいていは親御さんがどこの州に税金を納めているかとか、そいういうことだと思うのではありますが、よくは存じ上げません。

    ヨーロッパは、ユーロ圏内で人材の流通などの面でとても垣根が低くなっていますが、ヨーロッパ・日本・アメリカ間の移動とうなると、依然、医師養成システムについては閉ざされているといわざるを得ません。研修医の段階になると、低賃金労働者として外国の優秀な医師をアメリカに招き入れるシステムはありますが、基本的にはメディカルスクールの段階では、人材を流通させる必要が感じられないのだと思われます。

    娘さんについては、インターナショナルスクールでしたら、なかなか日本の受験体制で医学部というのもそれなりに難しいでしょうし、そういう意味でもしも医師を目指されるのであれば、隙間を縫って生きる生き方が強制されるのかもしれません。

    とにかく、大学での成績が非常に重要であるという、若干堅苦しい大学生活をお送りになるのかもしれませんが、「なぜ医師になりたいか」「本当に医師になりたいか」という動機付けの部分も大切にされることを、お勧めいたします。動機が不確かであれば、たとえこういう厳しい状況でなくとも、難しい道ではあると思いますし、動機が非常に強ければ、なかった道が開ける場合も、あるのかもしれません。

    無責任なご返答で、申し訳ございません。

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