2009年4月19日日曜日

いやな人

まわっている関連病院の外科医たちは、とてもいい人がほとんどなのだが、一人だけ本当に「いやな人」がいる。レジデントたちもこの人のオペには入りたがらずに、人手不足の時などは第一助手が見つからなかったりしてチーフを悩ませる種になっている。

昨日は朝7:30から17:00まで、ずっとその人のオペに詰めていた。



副甲状腺を取り除いてからPTHを測って、という待ち時間があったため、いろいろと雑談することができた。あながちevilな人とはいえなさそう。その人は日本史・世界史にも造詣が深く、雑談していると悪い人ではなさそう。ただ、手術のセンスがあまりよくないだけだ。不器用、というのではない。センスがないだけ。思うに、手術がうまくいかないから、ストレスで「いやな人」になっているのかもしれない。典型的な外科体型で、きっとお酒もだいぶ飲み過ぎの顔色ではあるので、可哀想といえば可哀想。



あともう一つ効いたのが、向こうの質問に沿ってうまく博士をとっているということを知らせることができたということ。外科(医学全般?)というのは結構、弱肉強食の世界なので、弱みを見せるといやな人はつけ込んでくる。そういう人に限ってうまく強みをちらつかせると、簡単に引き下がってくる。そこら辺がつかめてきたので、「What do you want to do?」という定番の質問から、博士もちのDr.であることをあかす質問へとを誘導するパターンはもう、だいぶ慣れた。こういういやな人に使うことにしているが、今回は実にうまく罠にはまってくれた。

「What do you want to do?」
「I'm planning to do a peds prelim year.」(小児科初期研修)
「What do you want to do after that?」
「I'm interested in research, so I think I want to do that.」
 (↑ここらへんの言い方が肝心。ちょっと自信なさそうにもとれる言い回しをしなければならない。うまくやると、こんな感じ↓につながる。)
「Well, you're interested in research... do you have a PhD?」
 (↑いやな人としては、「おまえPhDがなくちゃ、研究してもしょうがないんじゃない?」とつなげるつもり)
「Yes Sir, I've survived that processs.」
 (↑年上の外科はたいてい、sir呼ばわりだが、ここの慇懃無礼具合も、重要。うまくやると、向こうはこちらがまだ下手に出ているということを了解しつつも、これは勝ち目がないと内心さとる。ここらへんの、相手を微妙に揺さぶる具合が重要。やりすぎて向こうが完全にバランスを崩してしまうと、どう進展するかわかったものじゃない。)



ほとんど甲状腺ばかりをやっているとても親切・上手な女医さん。もうこの人と15例ほどやっているし、だから学生なりにも甲状腺周りの外科解剖や術野(retraction)についてはもう頭に焼き付いている。その女医さんは相手が4,5年目のレジデントだと必ず前立ちのレジデントにやらせながらアシストの回って、重要なポイントを口頭でwalk throughするという形をとるため、その上手な人がどうやってtissue planeを見つけて、どこの部分を特に入念にやっているかの哲学もだいたい了解した。おそらく口頭試問されても手術を頭から詳細にdictateできると思う。で、たとえほとんどレジデントにやらせていても、その人の手術は何回やっても、どのレジデントとやっても、できが美しい。

で、上手な女医さんとの比較だから、「いやな人」には悪いが、「あぁ~、そこそこ、だめだめ」とか思いながら鉤引きというのか、retractしていた。ちょっと難しいところになるととたんに、前立ちのレジデントも完全にretractionに回して、自分で勝手にのめり込む。右に回ったり左に回ったりして、一生懸命になる。

「いやな人」は悪いけれども、へたくそ。事実、3週間いてすでに、この人の術後症を2例見てしまっている。首の血腫(甲状腺周りの手術ではこれが一番怖い)と、腹腔鏡手術のtrochar siteからとしか思えない、retroperitoneal bleed。宜なるかな。



一方の上手な女医さんは、何が起きても、事前のプランを変更したりすることは絶対にない。はじめは左にたって、対側に回ると右にたつ。第二助手は必ず女医さんと一緒に動いて、はじめは上に立ち、片側の上半分が終わったら下に回る。この立ち位置を変えることは絶対にない。そして、レジデントによってどこまでやらせるかというのも、事前に頭の中で計画しているようだ。「このレジデントにはここまでやらせる」と一端決めると、少々のことが起きても、淡々と指示を出すだけで、焦って手を出すような野暮なまねをすることは絶対にない。

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